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ここでしか書けない創刊秘話

音楽誌「音に生きる」創刊までの挫折・苦労・感動…悲喜こもごもの本音を編集長が語る!

いくぜっ、赤坂の夜

【第29話】
「おいっ、このページ通しタイトル入ってねぇぞ」

「ライヴはヴですよね? ふに濁点じゃなく」

「何度言ったらわかるんだよ。ここはバッサリカットでいいから、こっちの内容をもっと」

「コンビニ行くの? なんでもいいから買ってきて、めんどくさくない食い物」

来る日も来る日も作業は続き、少しずつだが仕上がりへと近づけていく。
作業中の静寂を、時折かき消すこんな荒々しいセリフが、編集部屋の中を飛び交っている。
いやあ、つくづく現場ですなぁ。

風呂、ビール、ふとんでまとまった睡眠。
今はこの3つがとにかく欲しい。
汚い話だが、頭は掻きすぎてかゆみを通り越して痛い。
体全体が特上のオイルをまとい、この世のものとは思えない肌触り。
ほとんど睡眠をとっていないうえ、延々と続くデスク作業で、腰に重ったい痛みがへばりついている。

泊まり込みはもう5日を超えたが、なんだかんだと徹夜はしていない。
そう、これが熟練のテクニック。
次の日の集中力を絶対に切らさないように、1時間半でもいい、しっかりと睡眠をとる。
気持ちが充実しているから、この段階でもやろうと思えば一晩くらいの徹夜は敢行できる。
だが、グルッとまわった翌日の夜10時過ぎ頃に、どうしても力が落ちてしまう。
それと付け加えると、ベテランのボクにいわせれば、机で突っ伏して寝るのは意味がない。
あえて素人と呼ばせてもらおう。
あんなもんは時間の無駄で出版睡眠研究所(?)では、睡眠時間としてカウントしないことになっているのだ。
床に寝袋というシンプルな寝具ながら、体を横にして密度の高い睡眠を得る。
最終ギリギリのXデイに向けて、自分のペースをしっかりと守りながらも極限まで睡眠時間を削るためのこのテクニックを身につけるまでには、血のにじむような努力を要したのだ(って、べつにそんなテクつけたくねぇ?)。

さて、ここでふれておかねばならない第27話でつづった「のばしのばしのXデイふたたび」作戦。  〜27話はコチラ〜
役者顔負けの演技力で演じていたのだが、いつもの締め切り前と異なるボクの立ち振る舞いから、空気を読んでいくスタッフの面々はさすがだ。
だから真実を伝えたときには、そんなことはわかっていたとでも言いたげな表情で聞き流していた(ふーっ)。
だが作戦自体は、なかば成功だったと言っていいだろう。
印刷所の担当者が原稿を取りに来るのが10月23日。
編集作業のほとんどを21日未明に終え、今日、22日の夕方には最終チェックを終えた。
そこで見つけた訂正部分を最終の担当者たちが直すのだが、ここでそっち側の作業全般を担当する新井にもうひと粘り。
「そのアカ(訂正部分)吸収はいつまでかかるの」
「まぁ、今夜いっぱいかけてですね」
「明日の朝、もう一回だけ見ちゃだめ? 最終の最終」
あきれ顔の新井だが、気持ちは十分に分かってくれている。
「10時までに終えてくれればいいですよ」
「ありがとう。始発で集めるよ」

精神が体から離脱している編集員たち。
思考能力が脳からそげ落ちた編集員たち。
そして、油まみれの編集員たち。

ボクからの「お疲れ様でした」の一言を、今か今かと放心状態で待っていた。
制作ルームから戻ったボクはみんなに声を掛けた。
「申し訳ないんだけど、明日もうチョットだけ粘りたい。付き合ってくれ。今日はもう帰って寝ていいから。頭をすっきりさせて始発でここに集まってくれ」
普通…、もういい加減にしろのはずである。
勝手にやってればのはずである。
ところがこの連中、ボクの言葉の意味を十分に理解できるのだ(ちょい泣き)。
「わかりました」
真っ赤に充血したみんなの目が、ボクにまっすぐ向けられていて痛い。
でも、もうすでに明日への作業に気持ちを向けてくれている。
「よし、今日のところはお疲れ」
繰り返すが今欲しい3つ、風呂、ビール、ふとん。
どれが一番か?
うーん、やっぱりな。
ボクは次のセリフを吐いたのだった。
「さっ、(修正作業中の)制作のみんなには悪いけど行くか?」
おっさんポーズ炸裂の右手を口元でチョイチョイと振った。
ついさっき帰って寝ろといったボクの誘いに、ほとんどの人間がついてくるというのもスゴイとしかいいようがない。
この愛すべき、ネジのハズれまくった連中は、5日も6日も泊まり込んだあげく飲みに行くのである。
赤坂の街に薄汚れた連中が繰り出していく。
幸いだったのはこの日は日曜日で、街が閑散としていたことだな。
お姉さまがシャッチョさんをふぬけにするような店は、全部閉まっている。
ちょっぴりのご褒美に、安いチェーン店ながら、
回らない寿司屋ののれんをくぐったのだった。