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ここでしか書けない創刊秘話

音楽誌「音に生きる」創刊までの挫折・苦労・感動…悲喜こもごもの本音を編集長が語る!

決定していた雑誌名

【第26話】
珍道中を終え、10月6日に東京へ帰ってきた。
遅れに遅れてしまったが、
これですべての取材を終えたことになる。
少しは息をつけそうなものだが、
もちろんそんなわきゃーない!
山のようにある写真を選別してレイアウトに落とし込み、
押し寄せる波のように録音された声を文字に起こす編集者たち。
そして、ある程度整理されたものがラフ原稿としてボクのところに入ってくる。
編集長として、難しい判断を求められる1つの瞬間でもあるのだ。
締め切りまでのタイミングにおびえながらも、
編集者やライターの個性、
取材自体の持ち味を最大限引き出せるように、
入ってきた原稿に対して調整や訂正を加えていく。
たとえば
「あのインタビューでさ、一番強くきたのは『自分を知ること』って言ったときの顔なんだよね。だからタイトルでいこうよ」
こんな感じでさまざまな情報から、
自分の創りたい世界観へと誘ったり、
ときには強く引きずり込んだり。
また、逆にインタビューした中から捨てるものもあって、
ここでも当然、議論になることがある。
「ボクにはこっちの言葉の方が強く感じましたよ」
「でも、それってあなたの興味でしょ。ターゲットにしている連中は夢を信じているんだよ、そこを前提にしなくちゃ」
とかね。
とくに創刊号は、これから続いていくこの雑誌そのもののテイストさえ決めていくことになるから、
より高い集中力と時間が要求される。
…、のだが。
ケチケチ社長であるボクは、
ここに至ってもこの仕事に専念はできない(トーゼンだよね、トホホ)。
スーパーカリスマ編集長様がこのコーナーを読んだら、
激怒するのではないだろうか?
これほど緊張感のあるタイムリミットギリギリでの編集作業中なのに、
合間をぬって経理業務をこなす。
バイクイベントが開催されれば、取材に出かける。
年末に迫った引っ越しの段取りやレイアウト、
各種契約書の印鑑を押すことだって大事な仕事なのである。
それらをテキパキ(ちょっとウソ)と片づけると、
スーパーなんちゃって編集長に変身する。
「よーし、バリバリ作業しちゃうよ」
と張り切ってデスクにつく。
電話のベルが鳴る。
「社長、お電話です」
「おーよっ」
ライターさんからか、カメラマンさんか、
かかってきなさいよ。
「新しいビルの清掃業者さんからです」
「…」
スーパー事務マンに変身するのだった。

まっ、そんなこんなで、
あまり性能のよくない右脳がいっぱいのところで回っている、
充実した日々。
な〜んて偉そうに、
雑誌名だってまだだろ。
いやいやいや、
自分の中ではもう9月に入るころには決まっていたんです。
その時点でチーフデザイナーの新井に、
ロゴマークの制作を発注してあったんだからね、エッヘン。
ただし
「まず変更はないよ。ただその可能性は0%ではないけどね」
との注釈付ではあったのだが。

このプロジェクトがスタートしたばかりのころの企画書では、
雑誌名は『音で食え!』。
インパクトがあり気に入っていたのだが、
この雑誌名ではインタビューには応じられないと、
肝心の取材対象者であるアーティスト側からのNGが連発。
アーティストにとってイメージはものすごく大切で、
いろんな戦略の中で練りあげるもの。
そのイメージと「食え」というダイレクトな表現が、
まったく別ベクトルなんだそうだ。
ふむ、言われてみれば確かにイメージはよろしくない。
そしてもっと大きなことは、
取材を進めていくたびに自分自身が違和感を感じてしまったこと。
食うためだけの音楽雑誌というメッセージにとられたら嫌だ。
音楽ってもっともっと尊いものジャンてね。
つうことで『音で食え』を却下したのは8月初旬のこと。
「雑誌名を出せー」と編集部はもちろん、
社内に大号令をかけて寄せられたものは100をゆうに越えた。
ちょっと気になるものがあれば紙にプリントアウトしては眺め、悩み抜いた日々。
最終的には自分の考えを採用したんだけど、
いくつもの候補に対して真剣に悩むことも大変重要。
みんなのさまざまなとらえ方を自分の中にぶち込んで、
その上で練り上げていくことはけっして無駄ではない。
そうして決定したのが『音に生きる』。
シンプルで、わかりやすくて、それでいて力強い(う〜ん、自画自賛)。
雑誌のテーマをストレートに表現すれば、
これほどハマったタイトルはない。
ただ問題なのは、ベタすぎでカッコよくないということ。
まっ、作っているのがボクだからネェ、仕方ないでしょ。
つうことで正式決定!

雑誌名ってね、不思議な力があると思うんです。
本の方向性に対して、
魅力的なベクトルを加えてくれたりとか、
微妙なニュアンスを加えてくれたりとか。
こんな実験できるはずはないけど、
もしも中身がまったく同じで雑誌名が違うものを書店に並べてみたら?
それだけで手にする人の年齢層とか、
嗜好とかガラッと変わってしまうはずなんだと、
そうボクは信じてます。
雑誌名はターゲットがその雑誌を手にするための道しるべなんだと。
だからね、
正式決定はしたものの、
新井にロゴマークの依頼はしたものの、
対外的には『音に生きる(仮)』と(仮)を付けておいた。
営業からも、編集からも
「はやく決めてください」を繰り返され、
それでも企画書に入った(仮)の文字はギリギリまで取らなかった。
創刊が迫り、それを告知する広告にでさえカッコ悪いが取らなかった。
なぜなら取材を進めていく過程で、
また違った魅力的なベクトルを発見し、
それをプラスしたときにズレが生じるかもしれない。
それに単純に、もっといいなにかが見つかるかもしれない。
そんな期待や欲もあったのだ。

そしてとうとう(仮)の文字が取れたのは10月7日、
大安である。
ここまで来れば大丈夫。
取材がすべて終わっても『音に生きる』がベストだという『結果』になったのである。

ちょっぴりだけスッキリとした気分で、
うまいビールを呑んだ(って、呑んでていいのか?)。