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ここでしか書けない創刊秘話

音楽誌「音に生きる」創刊までの挫折・苦労・感動…悲喜こもごもの本音を編集長が語る!

おっきなタイムマシーンの中で

【第19話】
夕べは結局2時過ぎまで、川俣さん(第18話参照)とおおいに呑み、語り合った。
そのままいつもの民宿クレタ(オフィスのことね)に倒れ込み、朝6時を知らせる目覚まし時計にたたき起こされた。
「うっ、頭…、痛え、ねみぃ〜」
だが、ここは踏ん張らねばならない。
この日、もともとは予定に入れていなかったのだが、HOME MADE 家族のライブに行くことにした。
インタビューを通してその人間性に触れてしまったから、彼らのステージを素直な気持ちで見たいと思った。
だがその分だけ、予定していた仕事を出かけるまでに仕上げねばならないのだ(うっ、気持ち悪)。

幸いしたのは土曜日ということ。
いやぁ、いいねぇ。
休みを取っているスタッフが多くて静かなうえ、電話が少ないから仕事がはかどるはかどる。
平日はジャンジャン鳴るから。
仕事なのだからもちろんありがたいが、困るのが金融系営業の突撃テレフォン。
『金貸し』『投資』『保険』が3大迷惑電話である。
まともな提案や会話が出きるのならまだましだが、ほとんどが大学を出たての若造の練習相手をさせられる。
せっかく調子よく原稿を書いていたのに「社長ぉっ、今、金の動きがいいんですよ」なんて、マニュアル通りのセリフを言われると気分を台無しにされて、繊細(?)なボクはリカバリーに多大な時間がかかってしまうのだ。
これがないことで、平日の倍以上のスピードで仕事ができる。
3時に野音(日比谷公園音楽堂)集合だから、朝も昼も飯抜きでとにかくがんばった。

ボクと印南、忍の定番仲良しトリオは時間どおりに合流。
会場にはいるとリハーサル中の3人がボクたちに気付き、ペコリと会釈してくれた。
うーん、ホントにいいヤツらだな、気持ちいいな。
この取材は印南こそレポートを書くという仕事はあるが、ボクと忍は端から見たら観客である。
だが、ただ楽しんでいればいいかといったら、もちろんそんなことない。
客層を眺める。
その服装、年齢層、どんなグループでの来場か?
それとやはり、いろんな意味で「今」という現象を飲み込みたいのである。

久しぶりの野音はやっぱりいいな。
この日は珍しく涼しくて、リハの合間に聞こえるセミの声が、まるで夏の終わりにつっぱらかっているかのようだった。

開場すると若い女性がほとんどで、雑誌がターゲットにしている層とはやや異なるかなと。
まぁ、それはそれで。
取材に備えてCDを聞き込んでいたせいもあって、オープニングからすんなりと楽しめた。
やがてアンコールへ。
彼らを待つ会場を埋め尽くしたファンたちによる“サンキュー”の合唱で登場を待つ。
照明の落ちた会場に3000人の声で、何度も何度もサビが響き渡る。
このときとうとう『ピキピキピキッ(第17話参照)』が起こった。
瞬間、高校1年生の自分とつながっていったのだ。

それはボクが初めて行った大きなコンサート、ロッド・スチュワートの来日公演だった。
それまで、ライブハウスには行ったことがあったし、歌謡番組の公開収録にもよく出かけた。
それらのわずかな経験からイメージして出かけた武道館でのライブは、想像をはるかに上まわる、それはそれは衝撃的なものだった。
今振り返れば当時のロッドは、ロックを捨ててアイドル路線(?)を突っ走っていたころで、彼の長いシンガーライフの中でも一番おかしな時代だろう。
だが、こちとら高校1年生。
そんな尺度で分析できるほどすれちゃいなかった。
コンサート終盤にCMソングでガンガン流れていた“Oh god ! I wish was home tonight”の合唱がまき起こった。
「えっ、1万人の合唱ってこんなにすげぇんだ」って、自然と涙があふれていた。
あのときも女性の声が多くて、何度も何度もみんなで繰り返した。
そう、この日の“サンキュー”と同じように。

野音という大きな大きなタイムマシーンの中で、当時音楽の世界に向かって懸命に生きていた自分が鮮明によみがえってきた。
同時に、音楽のすばらしさっていつの時代もやっぱり変わらないよなって。
だったらそこに夢を抱いている若者だって、やはり根本では変わらないはずだって。
だったらストレートに情熱を、熱いものを本気で届ければいい。
「そうだこれでいい、これでいこう」とつぶやきながらコブシを握った。

この本を立ち上げるために、これまで見たり調べたり感じたこともどんどんつながっていく。
一線で活躍している方々は仕事に情熱を持っていて、なにより音楽を本当に愛している。
CDを選んでいる高校生は楽しそうだし、ライブハウスで演奏している連中は本気だった。
そうだ、なにも変わっていないじゃないか。
一部の冷めた連中や、現在を拒絶したがる大人たちが、自分を正当化するために現代を型に入れて語ろうとする。
それも実はいつの時代も同じで、本質は何も変わっていないことの裏返しだったりするのかもしれない。

ボクはこれまでたくさんのバイク雑誌を立ち上げてきた。
紆余曲折を繰り返しながらわかってきたのは、自分が本当に熱くなれたときに多くの読者の支持を得るということ。
音楽雑誌だからとか、今までターゲットにしたことがない若い層を相手にすることとか、工夫は大いに必要だろうが、勝負の本質はきっと変わらないはず。
情熱で勝負することを決心した、覚悟できた夜になった。
社に戻って仕事したい気持ちをグッと抑え家に帰り、次々にCDを鳴らし続けた。
朝4時を過ぎて“Oh god ! I wish was home tonight”をラストナンバーにして、長い1日を終えたのだった。