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ここでしか書けない創刊秘話

音楽誌「音に生きる」創刊までの挫折・苦労・感動…悲喜こもごもの本音を編集長が語る!

ああ、おもひでのレコード会社

【第15話】
挨拶と取材で、ほとんどのメジャーレーベルに顔を出した。
その中の一つにとても大きな思い入れがある会社がある。
エントランスをくぐる。
ああ、ここだ。
14年前のあの日、ボクは確かにここにいた。

夢の第一歩である、デビューに向けてのレコーディングリハーサルを開始したのだ。
普段練習しているスタジオの10倍以上の広さで、ボクはガラス張りのヴォーカルブースに閉じこめられて、ヘッドフォンを通じてメンバーの音に歌を乗せる。
緊張でガチガチだった。
何曲かを演奏してミキシングルームに呼ばれると、偉そうなおじさんが言う。
「あのねぇ、出しすぎ」と。
心にグサリと刺さったその言葉は、ある意味ではメジャーを象徴するものといえる。
「サビももっと抑えていいよ。Aメロなんか半分でいい」
ガーン。
「だってさあ、ロックって力をガツンとさっ、聴き手にぶつけるっていうかさっ、ええ〜っ???」
心の中で叫ぶ。
コンテストでもライブハウスのブッキング担当も、ボクの歌をほめてくれるのはいつもパワーだった。
うまくはないけどパワーで押し切るというのがボクのスタイルで、それが評価されてこの日を迎えたと思っていたのに。
自分が信じてきたことがガラガラと音をたてて崩れていく。
でもね、なんてったって相手はメジャー。
アドバイスは絶対なのだと言い聞かせ「はい!」と元気にお返事。
再度リハーサルを開始したが、結局この日はうまくまとまらないまま、ボクはメンバーの足を引っ張りまくって終了時間を迎えた。
このときのショックは計り知れないものがあり、帰りに寄った浅草にある行きつけのバーで愚痴。
「あのさあっ、ロックって120%が魅力じゃない。半分だよ半分。どう歌えってのよ、偉そうに」
「でもさ、ビートルズだって始めは好きなことできなかったって言うじゃない。がんばんなよ」
「そうだ!! ねぇマスター、ここで歌わせてよ」
ここで好き放題歌うかわりに、あっちでは我慢する。
我ながらいいアイデアだ。
「いいよ、大歓迎」

メジャーでやっていくということ。
むかつくこともたくさんあるけど、もらったアドバイスに対して放り投げてしまうヤツや折れてしまうヤツは大概ダメ。
未完成のうちに自分を持ってしまったら、もう伸びしろがないと言っているのと一緒なんだ。
タフにパワフルに受け入れてみる。
勇気を出して飲み込んでみる。
そこで新しい自分に会えて成長するんだよ。
ボクの場合、愚痴りはしたけど、逃げ場を作りながらだったけど、懸命に前に進もうとした。

なにも、音楽に限ったことじゃないよ。
40歳を過ぎたおっさんであるボクも、いまだに自分をオープンにして、できるだけ受け入れるようにしている。
現にこの原稿だって、担当編集から厳しいアカ(赤字で入ってくる訂正というか指導というか)が入るんだからさっ(また愚痴)。
投げたらそこで全部終わりなの!!
もっとも昨今は終わりを終わりとしない世の中だからね。
国のエライ人まで再チャレンジなんて言っているくらいですから…、ブツブツ。

あっ、そうそう。
ボクのレコーディングは、メンバーの大トラブルが原因で中断したままなんです。
あれから14年…。
久しぶりに訪れたレコード会社のエントランスと、浅草のちょっと古びたバーで好き放題に歌うボクは変わらずに、時間だけが流れ去っていった。